お侍様 小劇場

   “秋の祭りの権謀術数” (お侍 番外編 123)


まずはの“衣替え”で始まるのが十月で、
制服のある学校や職場では、
まだ小汗をかくというに
長袖を義務づけられちゃう困った頃合い。
まま、それもそれなり
お洒落に着崩したり
アレンジしちゃったりするもよし、
丁度重なる学園祭の準備で忙しくて つい…と
そこいらへ脱ぎ捨てといたり
腕まくりしたりも有りだろし。

 「いやいやいや、
  どれもあんまりお薦めではないですって。」

着崩しは、
生活指導のせんせえから風紀を乱すと注意を受けかねぬし、
ブレザーなり詰襟なりセーラー服…はやんないか、
濃色の上着はそこいらへ無造作に置きっ放しにされると
あっと言う間に
埃なり砂なりかぶってしまって真っ白けに、
汚れてしまうのがお母様泣かせだったりするんだ、君たちよ。

 「シチ…。」

俺はちゃんとしているぞと、
紅色の双眸を真摯に見張って、
訴えるように見上げてくる次男坊なのへは、

 「ええ、ええ。判っておりますよ?」

久蔵殿はちゃんと気遣ってくださって、
滅多なことでは汚してきませんものねと。
そこはちゃんと通じておいでの仲良し母子。

 「というか、体操服や家庭科のエプロンの類いも
  さして汚して来たことありませんよね。」

 「???(それが?)」

 「いえ、島田の人間としては、
  周囲から関心を持たれぬように
  言動は地味で通すことも必要ではありますが。」

 「……。(頷)」

だからって、無理から能力を押さえ込む必要はないのですよ?
体術が万能なのですから、
駆けっこだって球技だって水練だって得意でおいででしょうに。
隠しても詮無いと運動能力を発揮して
インターハイに出られたり日本代表になったことがあるお方は、
過去に何人もおいでだと聞いておりますし、と。
いいかい? 我慢したり無理したりは、体にも気持ちへも良くないよと、
こちらも負けじと(?)
青玻璃の双眸を真摯に澄ませ、
愛しい次男坊を見下ろし諭す、美しのおっ母様と。
金髪の美人母子が向かい合って見つめ合う図は、
はたから見る分には格別な眼福である筈…が、

 “……無理から押さえ込んでる奴が、
  街で与太者を叩き伏せたり、引ったくりを取っ捕まえたり、
  スキー場で窃盗団逮捕に尽力したり、
  どれを取っても派手なことばかり手掛けるかねぇ。”

ちなみに、どの騒動も
彼が参画したことは
そりゃあ綺麗にナイナイされているそうだけれど。(笑)
口に出して言うと厭味に聞こえるし、
何よりこういう場で久蔵を非難すると、
同座している七郎次が庇うに決まっているのでと。
そこはちゃんと把握した上で、
胸中での呟きで押さえた、
賢明な勘兵衛様だったのは 言うまでもなかったりする。
初秋の午後のリビングにて、
珍しくも家族3人がお顔を揃えているティータイム。
母子の愛情の疎通を十分確認し合ったところで、
最近頑張っておいでのロールケーキ、
今日のはなかなか上手に出来たんですよと、
白い手に銀の燦きがいや映える、
ケーキナイフで切り分けていた七郎次としては、

 「学園祭の準備と中間考査と、重なってはないのですか?」

10月と言えば…忘れちゃいけない、
学業サイドのイベント(?)も待ち受けていると、
さすがはしっかり把握しておいでのおっ母様。
成績をどうこうと言うのじゃないが、
生真面目な性分の久蔵なので、
どちらもちゃんと両立させんと頑張るのじゃないか、
無理をしてはないかというのを案じておいで。
生クリームたっぷりな、
今日のは
“しっとりシフォンスポンジの、
 キャラメルカスタードクリームロール”を、
5センチという厚さで切り分けて差し上げつつ、
難儀してはいませんかと問えば。

 「………vv」

甘いもので、且つ、
七郎次おっ母様のお手製という
宝物のようなケーキにお眸々を潤ませ、わくわくしつつ、
そんなことナイナイとかぶりを振る、
これでも高校剣道界では通年チャンプの剣豪さん。
小学生でももうちょっと、捻ったことを言ったりしそうなと
勘兵衛が呆れておれば、

 「そうなんですか?」

だったらいいのですがと、安堵に胸元押さえつつ、
その勘兵衛の鼻先へも、不公平のない厚さのケーキを差し出して、
にこりと微笑った七郎次であり。

 「う……。」

甘いものは苦手な御主と知っているはずの恋女房。
だがだが、この自分が作ったものだけは例外だぞよと、
いつだったか言って下さったの、覚えていたようで。
それで、久蔵との差別区別をしては
失礼と思ったらしいのがようよう判る。
さりげなくも気を遣ってくれたのだろう、
心優しき伴侶殿であると判る以上、
こちらもそれへ応じなければ大人げないというもので。
こちら様のはそれは大ぶりで、頼もしくも持ち重りして見える手で、
おもちゃのような小ささのフォークを摘まむと、
ちょんと切り分けたしっとり柔らかなケーキを口へと運んだ壮年殿。

 “……お。”

確かに生クリームがどっさりだのに、
スポンジは軽く、クリームは甘さ控えめな風味になっており。
甘ったるくならなかったので、
風味も成功したのですよと
言いたかった七郎次だったものと思われる。
わざわざ口にしなかった奥ゆかしさをこそ愛でるよに、
和ませた眸をややたわませて視線を向ければ、

 「〜〜〜〜。///////」

声をかけられた訳でなし、
言葉での応酬にはならなんだものの。
それでも伝わった何かへ素直に受け止め、
こそりと頬を染めるところが初々しい。
久蔵殿が気づいては気まずいと思ってのことだろうが、

 “シチ、可愛いvv”

仕える御主からのお褒めの眼差しにいちいち照れるなんてと、
すっかりお見通しなのには気づいてないらしく。


  さて、ここで問題です。
  島田さんチの3人の中で、一番“大人”なのは誰でしょう?


 
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 *本題に入れなかったなぁ…。
  タイトルがいやに大層ですが、
  大した話じゃありません、念のため。(こら)

  ちょっと私的にドタバタしていて、
  ワープロ前に座ってる余裕がありませなんだ。
  行事の多い秋もたけなわだってのに、口惜しい限りです。
  まだ少々落ち着きませんが、
  気を長くして見守っていただけると幸いです。


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